英雄譚なんて、僕には似合わない。第2話①
「でも、祈祷師の娘だから少しは長命なんじゃあないか、って言われているんですよ」
リニックは持っていたペンをくるくる回しながら、
「でも、やっぱり難しいですかねえ……。本当は、会って話がしたいんですけれど、今は行方不明。生きているかどうかも定かではない。もう一人の勇者の仲間も、普通の人間だったからか、二十年前に亡くなっていますし。何というか、研究するタイミング間違えたかなあ……」
「二十年前ったら、結構前じゃないかよ。親族とか居ないのか?」
「そりゃあ、それくらい探していますよ。でも、まったく見つかりません。いったいどこに雲隠れしてしまったのやら……」
「雲隠れ、か。そりゃあ、面白い話だ。世界を救った勇者様の仲間は、迫害でも恐れていたのかねえ? 普通、あの世界なら少しは権力を牛耳っていても良かったろうによ」
歴史。
百年前、勇者が他世界にてすべての根源である『オリジナルフォーズ』を破壊後、世界に平和が訪れた――とはいったものの、勇者そのものは行方不明となり、この世界に帰ってきた勇者一行も、全員が行方をくらましてしまった。噂によればどこかの町で勇者の物語を後世に伝えるために旅をしているとか、勇者の一行はどこか人里離れた山奥で平穏に暮らしているだとか、いろいろな噂が流れていた。
しかし、それも百年も昔の話。それにどの説も決定的証拠を見つけることが出来ず、結局真相は闇の中へと消えてしまうのであった。
「結局、人々に勇者の伝説は、英雄譚は根付きました。しかし、それは尾ひれのついたものばかり。もはやどれが真実でどれが嘘なのか分からないくらいに」
「別に、どうだって良いんじゃねーのか?」
「え?」
「いや、俺はそこまで歴史に詳しくはないが、その英雄譚は知っているぜ。とどのつまり、勇者は全員に知れ渡ったって言ってもいいだろうし、それは別に間違いじゃない。勇者が行方不明になった原因は知らない。それを探そうとしても証拠が見つからないんだからな。誰かが殺してしまっただとか、誰かと一緒に暮らしてそのまま平穏な一生を終えただとか、あるいは狂戦士の如く戦いを好むようになっただとか……いろいろな噂話が広まっている。けれどよ、それはそれで別に面白いじゃねえか。今のこの閉鎖的な世界で、娯楽は大事だぜ、リニック」
「……そんなもんですかねえ」
「そんなもんだよ。あ、そうだ。その荷物、誰から贈られているものだか分からなくてよ」