増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第1話①

 ガラムド暦二一二五年。

 戦乱が落ち着いてから、おおよそ百年の年月が経過していた。

 『赤き血』は、浄化が進められているとは言え、人類の居住区はかつての四割近くに留まっており、正直芳しい状況とは言えていない。

 では、元々住んでいる人類はどこへ向かっているというのか?

 僅かな土地を奪い合って、戦争を繰り広げている?

 それとも、僅かな土地に高層ビルを建造して何とかやりくりしている?

 答えは後者だ。僅かな土地で、人は何とか生活しようとして、高層建造物がたくさん出来るようになった。結果として、百年前に比べて技術が発展したというのもあるが、人口密度は過去に比べて上昇傾向にあり、それにその中でも食糧問題だとか領土問題だとか相次いで起こっており、今も人類を苦しめている。

 では、人類はそれで諦めてしまったのか? 問題を問題としておいたまま、そのままにしてしまったのか?

 答えはノーである。人類の野望などそんな簡単な問題で諦めきれるものではない。人類という種が半永久に残り続けるためには、やはり何らかの策を講じなくてはならなかった。

 そこで、人類が選択したのは――宇宙だった。

 宇宙には広大な世界が残されている。それに科学技術も二〇二五年にスノーフォグが解体されてからはあっという間に世間に広まった。そのため、宇宙に行く技術力は容易に生み出すことが出来た。

 それに、かつての歴史書にてこう書かれていたこともあった。


 ――偉大なる戦いにおいて、世界は分裂し、宇宙へ放り投げ出された。今我々が住む大地は、かつての人類が『地球』と呼ぶ惑星軌道上に載っているだけのプレートに過ぎない。


 そうして始まったのが、宇宙航海時代だ。

 宇宙は広い。それは人類の寿命を遥かに上回る程であった。しかしながら、人類はそんな制約をもってしても諦めることはなかった。

 かつての人類は高い技術力を保有しており、それはかつてのスノーフォグ領主、リュージュが大切に保管していた。そして、その技術の中に、ある技術が大切に保管されていたのだ。

 『冷凍保管技術』。

 文字通り、人を冷凍保管することで、人が本来生きていられる寿命(生存限界)を大きく上回る年数を稼ぐことが出来る、といったシステムだ。これは一万年以上昔に開発された技術であったが、スノーフォグの科学技術は凄まじく、それを使ってさらなる進化を遂げようとしていたのだ。

 スノーフォグの幹部は、有事の際にそれを利用することで災厄から逃れようとしていた。

 そして、その年数はおおよそ人類の生存サイクルの一周期であると言われている一万年に設定されていた。

 それは人類にとって偉大なる一歩であり、後の人類史に大きく名を残す時代となった。

 

つづく。