増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

小説感想。「私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて」

これは、東日本大震災を通して語られる『家族』の物語である。

 

本日は小説の感想。Hybrid Libraryより本日刊行された「私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて」です。

長いタイトルですが、この作品はどう省略しても、無理なのかもしれません。タイトルを読みやすく省略するのではなく、ただ、この全文で覚えたい。

 

私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて (Hybrid Library)

私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて (Hybrid Library)

 

 先ず、この物語の根幹にあるのは「東日本大震災」です。

2011年3月11日、14時47分。忘れもしない、あの時刻。

関東・東北地方をマグニチュード9.0の地震が襲いました。

津波原発事故……様々なことがあり、たくさんの方が亡くなりました。

かくいう僕も茨城県に当時住んでいましたこともあり、「被災者」でした。東北地方に比べれば報道も少なく、被害も少なかったためか一時期計画停電の範囲に含まれたこともあります。報道があまりに少なくて「なぜ報道されないのか」と憤慨したことが記憶に新しいです。クラスメイトの知り合いも、何人か亡くなった人がいたのを覚えています。今まであった風景が、すべて洗い流されていく。東日本大震災は、今も私たちの心に焼き付いているともいえます。

ですが、あれからもう4年半が経過しました。

被災者以外にとっては「もう4年半」かもしれませんが、被災者にとっては「まだ4年半」です。僕の住んでいた茨城県はとっくにほとんど復旧しましたが、福島県宮城県といった東北の被災地では今もなお居住地に悩む人が多いとのことです。

そして、かつては福島県にあったバッシング(福島県産の食品を不買したり、福島県から避難してきた人たちを貶したり……などです)も徐々に薄れてきています。

ですが、それと同時に人々の記憶から「東日本大震災」というものが薄れている、僕はそう思います。

 

話を戻しましょう。「私たちのバイクの旅と、ささやかながら与えられた救いについて」は東日本大震災から4年以上経過した「今」を捉えた作品だということを、僕は言いたかったのです。

挿絵は写真とイラストで構成されています。写真は……おそらく東北地方の今、なのでしょうか。イラストも物語に会っていると言えます。最後のイラストも、そして、あとがきの最後のイラストも……とても素晴らしいものです。

 

話は変わりますが少し前、職場の方に仕事で東日本大震災被災地に行ったときのお話を聞かせていただきました。そこで聞いたのは、仕事をしている人に対して被災者の人から食べ物をいただいた、とのことです。

僕はそれを聞いてすごく驚きました。被災した人だって大変なのに、他人のためにそこまでできますでしょうか? 僕は恥ずかしながら素直に「できる」とは言えません。

 

主人公は受験生です。受験生とは思い悩み、苦しむものです。自分はほんとうにこの学校に行きたいのか、受かるのか、と思い苦しむ。そして一つの結論を導くために齷齪する。それが受験生です。

そんな中出会った女性は、祖父と文通をしていた。祖父のことを何も知らなかった彼女は一人、女性とともに東北へと旅立ちます。

そして東北の人から聞いた事実に、一度は彼女も東北から帰ろうと思います。ですが、それでも女性の言葉を聞いて、彼女はまた東北地方へと戻ります。

最終的に彼女たちは何を決断するのか? そしてそのあとどう未来へと進むのか? それがラストとエピローグに語られ、最後を締めくくります。

読み終えた後にタイトルを見ると、感慨深くなります。

この作品は、もっとたくさんの人に読んでほしい。

これは東日本大震災後の「今」を生きる人たちの物語です。

僕は満を持して、この作品を推していきたい。そして、僕の感想を見て少しでも読んでいただける方が増えるのならば、これ以上の幸せはありません。

 

じゃあのー。

 

◇Hybrid Libraryとは?◇
 2015年5月から毎月1~2冊程度の頻度で刊行されている同人発の電子書籍レーベル。主宰の弥生肇さんが書く「ダイヤモンドダスト -灰になった宝物-」をはじめとして現在まで計5作品が刊行されている。中でも8月に発売された「ひめとり!」がKindleストア有料タイトル100位以内に入るスマッシュヒットを打ち出す。公式サイト 最新作ページ