増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話②

 ぱちり。電気がはじける音がトンネル内に響き渡る。
 燃え尽きた後の列車を実況見分するのは、警備隊の仕事だ。
 しかしながら、今日は訳が違う。
 何故だかその実況見分に、帝国のカラスミ=ラハスティ将軍が同行するということになった訳だ。
「なあ、どうしてカラスミ将軍がいるんだ?」
「知るかよ、そんなことよりさっさと実況見分終わらせちまおうぜ。見た感じ、ただの爆弾によるものっぽいしよ」
「そこの警備隊、今の話、少し聞かせてくれないかな」
 警備隊の二人の会話を、カラスミは聞き逃さなかった。
 カラスミの言葉に二人は即座に敬礼し、丁寧に情報を提供する。
 下手に変なことを言ってしまうと、その場で斬首ものだ――あくまでも噂の範囲だが。
「……成程。ということは、水を使った爆弾ということだな?」
 一通り話を聞き終えたところで、彼女はそう結論づけた。
「いえ、正確には水を構成する分子によるものが原因でして……」
「?」
 カラスミは首を傾げ、
「私は難しい話が苦手なんだ。要するに、水が原因で作られた爆弾なのだろう? そんな爆弾を開発可能な施設は? この星に存在するのか?」
「い、いえ……。確かにこの分子は水を構成する分子によるものですが……、流石にそれによる爆弾を作ることが出来るか、と言われると……」
「無理なのだな」
「は、はいっ」
 カラスミは踵を返す。とどのつまり、この爆弾は進みすぎた科学……或いは魔術かもしれない、によって開発されたものである、と。
 と、なると、答えはただ一つ。
「これを生み出したのは、オール・アイの一派か、或いはアンダーピース……。いずれにせよ、我が国に被害を齎すなど絶対に許せん」
 今回の列車事故では、何人もの人間が亡くなっている。
 それについては原因究明が急がれるばかりだし、犯人も捕らえなくては成らなかった。
「いずれにせよ、奴らは我ら帝国にやってくるはずだ」
 ――理由は単純明快。剣の欠片を三つこちらが所有しているからだ。
 だが、その剣がどういう意味を成しているのかは明らかになっていない。『偉大なる戦い』によって使われた剣であるということは明らかになっているし、歴史の教科書にも載っている程の常識だが、しかしながら今になってそれを使う意味がさっぱり分からない。
 それを使うことで、世界を変えてしまう程の力を得てしまうからか?
 それとも、それを使わなくては成らない程の脅威が出現してしまうのか?
 結論は考えても出てこない。それに、幾ら考えたところでそれが正しいかどうかははっきり分からないし、分かるはずが無い。だったらさっさとどちらかを捕らえて吐かせれば良いだけの話だ。それがどうして今に成って必要になったのか、その理由を。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話①

 そして、三日後。
「……ついにここまでやってきたわね……」
 地下鉄のトンネル、その入り口にメアリーとリニックが隠れていた。隠れている理由は単純明快。軍の兵士が地下へのトンネルに検問をかけているためだ。だから鉄道も一度停止して全員の個人情報を確認せねば進めることが出来ない。
「想像以上に、厳重体制で剣を隠しているのね……。何というか、これじゃあ、埒外よ。どうしようもない」
「でも、これから陽動をかけて……」
「ええ、だから生まれる隙はほんの一瞬でしょうね。それを利用して、」
 どがあああああああああああん!!!! と巨大な爆発音が聞こえた。
 その爆発音は何かを破裂させたような音で、恐らく何かを仕掛けていた爆弾が爆発したものだろう。
 そして、その爆弾は先程検問を通っていた列車からだと確認出来る。
「……何が起きたの……?」
 流石に予想外の行動が起きたので、メアリーは目をぱちくりさせていた。
 しかし、リニックは違う。
 そんなことを確認するよりも、行動あるのみという手に出たのだ。
「り、リニック!」
「行くなら体制が混乱している今です! 狙っているかどうかは分からないけれど……もしかしたらあの手口は、オール・アイの可能性だって有り得ますよね?」
「オール・アイが……。成程、面倒ごとを全て吹き飛ばしてしまえ、という戦法ね……。むちゃくちゃにも程がある戦法といえば、その通りかもしれないけれど、」
「そんなことを言っている暇があるなら、さっさと行きましょう!」
「わ、分かっているわよ!」
 そして、メアリーとリニックは爆炎立ちこめる列車爆発事故の現場へと向かうのだった。

 ◇◇◇

 そして、一足先にその現場を通過している人間が二人。
ライラックがまさかこんな作戦を思いつくなんて思いもしなかったけれど、」
「でもおかげで先に進めましたね?」
 オール・アイの言葉に、そりゃあそうだけれど、と答えるロマ・イルファ
 列車爆発事故の要因は、小型の水素爆弾だ。
 ロマ・イルファは水を生み出すことが出来る。その水を電気分解した後、炎をぶつける。それにより爆発的なエネルギーを生み出すことが出来る。それが水素爆弾の簡単なメカニズムだ。
水素爆弾、ね……。随分と昔にもそんな戦法を利用した人間が居たような気がするけれど」
「何か言ったかしら、ロマ・イルファ?」
「いいや、何も。……あとは、どう進めば良いのかしら?」
「ええと……」
 オール・アイは目を瞑る。
 そうして持っていた杖を彼女の顔から少し離れた位置で一周回すと、目を開いた。
「分かりました。さ、先に進みましょう」
「一応確認だけれど、本当にそれで分かったの?」
「分かりましたよ? 確認します?」
「確認する方法がどうやってあるというのか、逆に教えて欲しいレベルなのだけれど」
 そうして、彼女たちは先に進む。
 祠へと向かう最短ルートを通って、彼女たちはさらに前へ、前へ。

 

「Milk Puzzle」を6/11より配信開始致します。

6/11 0時より、カクヨム伊藤計劃トリビュート参加作品の「Milk Puzzle」をBook Walker独占にて配信致しますことをご報告致します。

bookwalker.jp

内容はカクヨム版と変わらないので、購入すればオフラインで読むことが出来る、という利点ぐらいでしょうか。書き下ろしの後書きぐらい用意しても良かったかもしれないですね…。次回の反省点とします。

 

また、ドラゴンメイド喫茶シリーズについても今月末Book Walkerにて販売を予定しております。そちらも合わせてよろしくお願いいたします。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話②

 アントへのフライト中。
 ロマ・イルファとオール・アイは会話をしていた。
「次の満月はいつ?」
「次? ……ええと、確か三日後だったと記憶しているけれど」
「三日、ね。なら全然間に合う速度かしら」
「満月と何か関係性が?」
「シルフェの剣は月の力を使うと言われているわ。それに、魔力は満月に満ちている、とも言われているのよ。だから満月の日は一番剣と月が呼応しているタイミングと言ってもいいかしら。その意味が分かる?」
「……いいや、まったく分からないわね……。どういうことなの?」
「シルフェの剣は特殊な魔力を込められている。それが月と呼応するということ。月がアースやその他惑星に隠れてしまうと、その力は減少してしまう」
「じゃあ、満月のタイミングに行くのがベストなの?」
「まあ、そういうことになるわね」
「ふうん、成程ね。面白いことをよくまあ知っているわね。……私なんて、魔力の塊ではあるものの、そんなことまったく知らないのに」
「魔力の塊……そうね、あなたはそういう存在だったわね」
「メタモルフォーズと人間のハーフ……よくも人間は考えたものだと思うわよ」
「……恨んでいるかしら?」
「何を?」
「作られた命を、作られた人生を」
「……いいえ。今は、お兄様を救うために動いている。それはあまり考えないようにしているわ」
「じゃあ、やっぱり」
「でも、もし今度お兄様と私を使うようなら、たとえ創造主でも殺す」
「……、あなたたちもう自由よ、はっきり言って。問題はあなたが『お兄様』を助けたいために彼らをつきまとわせているだけ」
「問題でも? 私のことを『モノ』と扱った代償と思えば軽いものでしょ?」
「それも、そうなのかもしれないけれど」
『間もなく本機体は、アント国際空港に着陸します。……しかし、このまま進むと管制塔の指示を受けることになりますが、如何なさいますか』
 彼女たちの会話を切るように、コックピットに居るライラックの言葉が聞こえてくる。
 無論、会話は一方通行となっているので、ロマとオール・アイの会話が聞こえることは無い。
「……問題ない、とは言いがたいわね。上手く空港から離れることは出来る?」
 近くにあるマイクの電源をオンにして、オール・アイは言った。
『離れることは、出来なくは無いですね。けれど、何だか軍の戦闘機がたくさん飛び交っているような気がするんですよ。今のところ怪しまれていないようですけれど』
「……軍の戦闘機ですって? まさか、カトル帝国の連中、既に剣を集め終えたとでも……?」
「だとしたら、都合が良いじゃあない」
 オール・アイの独り言をロマが拾い上げる。
「今こちらに一本、メアリーが一本、帝国が三本持っている状態なら、ここで戦闘を始めてすべて奪い取ってしまえば良い。あとは『祭壇』へそれを持って行けば……」
 ロマの言葉を聞いて、オール・アイは何度も、何度も、頷いていた。
「うん……うん! 確かに、そうですね! それならばなんとかなりそうです!」
「じゃあ、それで行きましょうか」
 ロマは小さく笑みを浮かべた。
 決戦の時は、三日後。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話①

「問題はその地下にどうやって入るか、ということ。きっと軍も策を張り巡らせているに違いない。……だとすれば、どうすればいいか?」
「普通に考えれば、二手に分かれるのがベストだろうな」
 言ったのはリニックだった。
「ええ、そう考えるのが普通でしょう。そこで、私たちは二手に分かれることにしたわ。私とリニックが地下にある祠に向かう。その扇動を、ライトニングとレイニー……あなたたちにお願いできるかしら?」
「出来るの。頑張るの」
「了解です!」
「ライトニングは祠に行かなくて良いのか?」
「剣に選ばれたのはあなたなのだから、必要なのはあなただけで十分よ」
「そんなもんなのか」
「そんなもんよ」
 メアリーはある場所を指さす。
 そこは、都市の中心部から少し離れた隧道だった。
「ここに地下トンネルの入り口がある。正確に言えば、地下鉄の入り口ね。ここから潜入して、隧道を経由して、地下の祠へ向かう。でも、地下への入り口は全て軍が警備しているでしょうね。このあたりをさらりと見た限りでも軍の人間がかなりの数居たし。けれど、意外と私たちには気づかれなかった」
「泳がされている可能性は?」
「無きにしも非ず、ね」
 可能性としては有り得る、ということか。
 リニックはそんなことを考えつつ、メアリーの話を聞いていた。
 メアリーの話は続く。
「……なので、とにかく二人には派手にやって欲しい訳よ。勿論、捕まるわけにはいかないわよ? 捕まってもいいぐらいにドンパチやらかして、捕まってしまっては元も子もないわけだし」
「それぐらい、分かりますよ。……じゃあ、決行日はいつにしますか?」
「早いほうが良いわね。でも、明日なんていうのは準備が出来ていないし、無理だと思う。だから、次の満月の日の夜に……でもしましょうか。次の満月っていつ?」
「三日後なの」
 ライトニングが即答する。
「じゃあ、それで行きましょう。三日後、私とリニックは地下のトンネルへ。ライトニングとレイニーは……好きに爆発なり何なりさせれば良い。ただし、善人を殺しちゃだめよ?」
「機能停止は?」
「許可します。必要に応じて」
 許可しちゃうのか、とリニックはそう思った。
 そして三日後、作戦の決行をするべく今日、僕たちは別れるのだった。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話③

「彼女の名前……ライトニングじゃあないのよ、正確には、ね。ライトニングは、私が適当につけた名前。彼女は、かつての旧文明からこの時代を観測し続けて、そして今は私とともに行動をしているというだけに過ぎない。その名前は、キガクレノミコト。かつては『日本』という国で神の一柱を演じていたらしいが、今はその神の地位を捨て『眷属』にしたらしいけれど、ただまあ、眷属がどうのこうの、あなたにはあまり関係の無いことかしら?」
「いや……何というか、情報量が入りきらないというか……」
「人間というのは、弱っちい生き物なの」
「弱っちい……は余計過ぎないか? いや、まあ、何というか……凄いのは分かったんだけど……」
「キガクレノミコトはもう古い名前だから、あまり気にしないほうが良いの。今の私はライトニングという名前、それだけで良いの。……良いの?」
「なんでそこで再確認するのかしら、ライトニング? 別にあなたが良いと思えばそれで良いんじゃあない? だめならばだめで良いけれど、そしたら名前を元に戻せば良い。名前なんてものはあなたがあなたであることを決める数少ないピースの一つなのだから」
「……それじゃあ、ライトニングで良いの。今の私はそれが似合っているの」
 ライトニングはこくこくと頷く。
「……それならそれで良いわね。あなたがそう思っているなら、それで生きていくべきよ」
 メアリーはライトニングの頭を撫でながら、そう言った。
 ライトニングはそれが気持ちいいのか、笑みを浮かべながら、そちらを見つめていた。
「……さて、それじゃあ、作戦会議の仕切り直しと行くかしらね」
 そして、メアリーたちは作戦会議を(漸く)再開するに至るのだった。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話②

「私はそんな柄ではないよ。お前だってそれは知っているだろう?」
 キャビアはそれを聞いてうんうんと頷く。
「それぐらいは知っているぞ。だが、昔から言うでは無いか。女は家庭に入るべきだ、と」
「それは昔の話だ。今は男だって女だって剣を振るい、国のために戦うのが一般論だ。世間もそう認めているでは無いか」
「そりゃあ、」
 キャビアはどこか遠くを眺めて、
「そうだが……」
「そういうわけで、私はこれからも任務を遂行する。……あれがあれば、帝国も力を発揮できる。そうだろう? 正確に言えば、『どのような力をも手に入れる事が出来る』だったか。陛下が何をお望みか分からないが、剣の力を真に使える人間が出現した。そして、それがアントにやってきてくれる。なんと良いことか。かつての人間が使っていた言葉に、『飛んで火に入る夏の虫』なんて言葉があるらしいが、まさにそのこととは思えないかね」
「まあ、今はこの世界に季節なんて概念は存在しないがね……」
「……二千年近く昔の話だったかしら、その戦いにより世界は崩れ、地軸のずれにより季節という概念は失われ……、結果的に、この世界はどうなってしまうのかしらね。とてもいびつな世界になってしまっているわけだけれど?」
「さあな。それを決めるのは俺たちじゃあない。もっと上の立場の人間だろうよ。或いは人間じゃあないかもしれない」
「そもそも私たちに決められる立場の話じゃあないってことね……」
 窓から外を眺めるカラスミ
「あら、雨ね……」
 外は雨が降り出していた。
 それはまるで何かを報せるようにも感じられた――。

 ◇◇◇

 アント国際空港に到着したメアリーたちを待ち構えていたのは、土砂降りの雨だった。
「……最悪ね。まあ、雨雲を突っ切った時点で予想は出来ていたけれど」
「今日はどうするつもりなの?」
 メアリーの言葉にライトニングは尋ねる。
 メアリーは頭を掻いた後、ライトニングたちに答えた。
「え? ああ……ええと、取りあえず先に宿を取りましょう。もう疲れたわ……。一日休むとまでは行かなくとも、今日はここで一泊しましょう」
 国際空港には、たくさんの人間(無論人間以外の存在も居るのだが)が往来するためか、ホテルが併存している。だからそこを上手く利用してしまおうという考えなのだろう。
 問題は、そのホテルに空室が存在しているか、どうかなのだが――。

 ◇◇◇

「いやあ、なんとかなったね。運が良いことに、シングルとはいえ全員分の部屋が確保が出来るとは」
「シングルだからこそ、奇跡に近いわよ。だって、こんなに巨大な空港に一番近いホテルが人数分だけ空室があるなんて、奇跡よ。奇跡」
 取りあえず、今は作戦会議ということでメアリーの部屋に全員が集まっている状態だ。
 メアリーはベッドに地図を広げる。地図は先程ホテルのラウンジで購入したものらしい。
「ここが空港。そして、この都市の中心……その地下に祠はあるわ」
「何故それは確信だと言えるんですか?」
「そりゃあもう。ライトニングから聞き出したに決まっているじゃあない」
「ライトニングが……祠の管理に何か関わっている、と?」
 それを聞いたメアリーはきょとんとした表情で、リニックを見つめる。
「あら? 言っていなかったっけ?」
「……メアリーはいつも言うことが遅くなるの。言うよりも先に行動が出てしまうの。悪い癖なの」
「もう、そんなこと言わないでよ。……ええとね、このライトニングは、というかライトニングって名前じゃあないんだけど。……これについては言ってもいいよね?」
 こくこく、と頷くライトニング。
 というか言った後に事後承諾を得たところで問題ありありなのだが。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話①

 アント。
 機械文明になっているその場所は、カトル帝国の主要都市となっている。
 そして、アントにはカトル帝国の第一基地があり、そこには軍事の中心があると言われている。
 第八会議室。
カラスミ将軍。君は剣を手に入れているという話は、本当かね?」
 目の前に座っている男とは、腐れ縁の仲だ。しかしながら、そこまで仲良くなく、寧ろ悪い方に入ると言ってもいい。
 キャビア=レークサイト。
 第一基地を管轄する将軍であり、彼はこのアントにある祠を管理している人間だ。
 そして、カトル軍のリーダーでもある彼は、各基地の将軍の上に立つ存在でもある。
 そんな人間に、嘘を吐いて上手く誤魔化すことは、そう簡単な話では無い。
 諦めた彼女は、深く溜息を吐いた後、答えをはっきりと告げることとした。
「……ええ。あなたの言うとおりですよ、私は剣を既に三つ手に入れています。しかしながら、カトルとトロワについては剣を手に入れていない……。それどころか、トロワに至っては星が消滅したという報告も上がっている」
「それは、君が『見逃した』という一味によるものでは無いのかね?」
「さあ、どうでしょう? それは聞いてみないとなんとも言えませんが」
「……聞いてみないと、なんとも言えない……ね」
 キャビアはそう言うと、伸びていた顎髭に触りつつも、
「しかしまあ、随分と嘗められたものではないかね、このカトル帝国が? アースの一組織に。アースはもう人間が滅びてもおかしくない、いつ人間の住める環境が狭まってもおかしくない状態にあるというのに、我々がアースに目を向ける必要は無い、と言われている。まあ、皇帝陛下が『母星への帰還』を命じているから致し方ない事ではあると思うがね」
「皇帝陛下を卑下しているのか?」
「まさか、そんなことをするはずがない。君と私の仲だろう?」
「そんな仲になった覚えは無い。これっぽっちもな」
「冷たいなあ、カラスミくん。……で、どうするつもりかね? 彼らは次にやってくるとしたら、このアントでは無いかね?」
「彼らがどれほど力を身につけたか、というところでしょうか。剣の力を身につけて未だ日が浅い。剣に振り回されるか、剣を使いこなすか。それについては、実際に剣を交えてみないとなんとも言えないこと」
 剣を構えるカラスミを見て、深い溜息を吐くキャビア
「……何というか、相変わらず、戦闘狂と言ったところか。そろそろ男とくっつくつもりは無いのか」
「私が、か?」
「そうだ。お前が、だ」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第29話②


「トロワが爆発した……ですって?」
 そして、そのアナウンスを宇宙船の中で知ったメアリーは、思わず崩れ落ちそうになった。
「メアリーさんっ」
「大丈夫、大丈夫よ、リニック。……それにしても、奴ら、そんな強攻策をとってくるなんて思いもしなかった。どうしましょう、きっと剣も手に入っていることでしょう」
「こちらにある剣と、あちらにある剣、そして残りは三つ……。どっちが先に手に入れるか、ですよね」
「決まっているわ、こちらが先に手に入れて、そしてその剣も出来ることなら手に入れたいけれど……」
「総帥、今来ました。この船はアント国際空港へ行き先を変更するようです」
「アント……って、機械文明の?」
「そうね。一番旧時代の色が濃く残っているとも言われている、アント」
「アントには知り合いもいないんですよね……。だからしらみつぶしに探すしか無いと思うのですが」
 レイニーの言葉に、メアリーは言った。
「そりゃあ、最初からしらみつぶしに探すつもりよ。……それに、こちらには強力な『眷属』が居る。……ええと、」
「ライトニング、なの」
「そう! ライトニングが居るでしょう?」
 今の動作が、少しだけおかしいと思ったのは、リニックだけだった。
 だが、問いかけるわけにも、指摘するわけにも、いかなかった。
 そこで彼女たちの良い雰囲気を崩すわけにも、いかなかった。
「それじゃあ、次の目的地は、アント。……アント国際空港にはどれくらいで到着するのかしら?」
「ああ、それなら――」
 レイニーの言葉をかき消すように、アナウンスが入ってくる。
『……皆様、このたびはご迷惑をおかけして申し訳ございません。トロワの大爆発により、空港への移動が出来なくなりました。その関係上、アント国際空港へ緊急着陸と致します。到着時間は今から五時間後になる見込みです。皆様には大変ご迷惑をおかけ致します』
 機械的なアナウンスを聞いたメアリーは頷く。
「あと五時間……。それまでにアントの剣が奪われていなければいいけれど」
 そうして、彼女たちの目的地はトロワからアントへと変更することになった。
 二つの剣はそれぞれの勢力によって一本ずつ奪われてしまった。
 残る『伝説の剣』は、三本。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第29話①

 村長が手に取っていた剣を手に取ると、それを見てにやりと笑みを浮かべる。
「ついに、手に入れたわ。剣の『欠片』を」
 そうして、空間に円を描くと、そこに穴が生み出された。
 そこに剣を放り込むと、再び円を描く。すると穴は閉じ、そこには何も無くなった。
「……あとは、それを知る人間を全て殺すだけ、ね」
 ポケットから銀時計を取り出して、時間を確認する。
「あと一時間、余裕はあるわね」
「村長っ!」
 そのとき、声が聞こえた。
 開いていた祠の入り口を見ると、親衛隊の一人――ピローがそこに立っていたのだ。
「き、貴様! 村長に何をしたっ」
「何って、殺しただけよ。あなただって人が……いいえ、リザードマンが死ぬ瞬間なんて見たことがあるでしょう? 見たところ兵士のようだし」
「貴様ああああああああああああああああっ!!!!」
「……しかし、兵士に必要なのは力だけじゃあ無い」
 オール・アイが彼に手をかざす。すると、そこから鋭い針が無数に生み出され、彼の身体を貫いた。
「あがああああああああああああっ!!!!」
「余裕も必要なのよ、正面から突撃するなんて無謀もいいところ。……それぐらい分かっておきなさい、兵士ならばね」
 そして、オール・アイは血まみれになった祠を後にする。
「さあ、後は」

 ――その事実を知るリザードマンを皆殺しにするだけ。

 ◇◇◇

 それからは、早かった。
 村長の家に居る学者は全員殺害し、親衛隊も息の根を止めた。
 残りの住んでいる人間は殺害こそしなかったが、禍根を残さないために、ある手段を用いた。
「……ええと、先ずはこの星のマグマの流れをうまくコントロールして……」
 北東の小島に着陸する宇宙船を見上げながら、オール・アイは何かをしていた。
「オール・アイ? もう終わったのかしら」
「ええ、もう終わりましたよ。剣は後で出しても良いかしら」
「構わないわ」
 外に出てきたロマ・イルファとの会話をしつつ、何かを作っているオール・アイ。
「オール・アイ……いったい何を作っているのかしら?」
「斥力爆弾、とでも言えば良いでしょうか。簡単に言えば、電子と電子が突っぱね合う力を利用して、そのエネルギーを爆発に変える。簡単なものですが、設計図が無いと流石の私も作るのには時間がかかりますね……」
「ここに居る人間を、皆殺しにするということ?」
「人間というより、リザードマンと言えば良いでしょう。彼らには人権はありません。それに、剣を持って行かれたことを知られては困ります。帝国の領土ではないから、消すのは簡単です」
「だめよ、それは!」
「あなたが言っても無駄です。これはもう実現されたこと。……よし、これで完璧です」
 そうして、穴から何から落ちてきた。
 それは小さな球体だった。球体に時計がつけられたそれは、十五分のタイマーを指していた。
「……あとはこのスイッチを押すだけです。ライラック!」
『はい?』
 突然声をかけられたライラックはスピーカーを通して、オール・アイの言葉に答える。
「今から十五分後にこの惑星を爆破させます。良いですね、大急ぎで出発する準備をしなさい!」
『それならいつでも出来ますよ! エネルギーも充填完了済です!』
 オール・アイは頷くと、スイッチを躊躇いなく押した。
「さあ。急いで逃げましょう。もうこの星に未練はありません」
 オール・アイはロマを押し込むようにロケットに入る。
 そしてロケットは五分後には完全にトロワを離れていくのだった。