増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話①

 アント。
 機械文明になっているその場所は、カトル帝国の主要都市となっている。
 そして、アントにはカトル帝国の第一基地があり、そこには軍事の中心があると言われている。
 第八会議室。
カラスミ将軍。君は剣を手に入れているという話は、本当かね?」
 目の前に座っている男とは、腐れ縁の仲だ。しかしながら、そこまで仲良くなく、寧ろ悪い方に入ると言ってもいい。
 キャビア=レークサイト。
 第一基地を管轄する将軍であり、彼はこのアントにある祠を管理している人間だ。
 そして、カトル軍のリーダーでもある彼は、各基地の将軍の上に立つ存在でもある。
 そんな人間に、嘘を吐いて上手く誤魔化すことは、そう簡単な話では無い。
 諦めた彼女は、深く溜息を吐いた後、答えをはっきりと告げることとした。
「……ええ。あなたの言うとおりですよ、私は剣を既に三つ手に入れています。しかしながら、カトルとトロワについては剣を手に入れていない……。それどころか、トロワに至っては星が消滅したという報告も上がっている」
「それは、君が『見逃した』という一味によるものでは無いのかね?」
「さあ、どうでしょう? それは聞いてみないとなんとも言えませんが」
「……聞いてみないと、なんとも言えない……ね」
 キャビアはそう言うと、伸びていた顎髭に触りつつも、
「しかしまあ、随分と嘗められたものではないかね、このカトル帝国が? アースの一組織に。アースはもう人間が滅びてもおかしくない、いつ人間の住める環境が狭まってもおかしくない状態にあるというのに、我々がアースに目を向ける必要は無い、と言われている。まあ、皇帝陛下が『母星への帰還』を命じているから致し方ない事ではあると思うがね」
「皇帝陛下を卑下しているのか?」
「まさか、そんなことをするはずがない。君と私の仲だろう?」
「そんな仲になった覚えは無い。これっぽっちもな」
「冷たいなあ、カラスミくん。……で、どうするつもりかね? 彼らは次にやってくるとしたら、このアントでは無いかね?」
「彼らがどれほど力を身につけたか、というところでしょうか。剣の力を身につけて未だ日が浅い。剣に振り回されるか、剣を使いこなすか。それについては、実際に剣を交えてみないとなんとも言えないこと」
 剣を構えるカラスミを見て、深い溜息を吐くキャビア
「……何というか、相変わらず、戦闘狂と言ったところか。そろそろ男とくっつくつもりは無いのか」
「私が、か?」
「そうだ。お前が、だ」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第29話②


「トロワが爆発した……ですって?」
 そして、そのアナウンスを宇宙船の中で知ったメアリーは、思わず崩れ落ちそうになった。
「メアリーさんっ」
「大丈夫、大丈夫よ、リニック。……それにしても、奴ら、そんな強攻策をとってくるなんて思いもしなかった。どうしましょう、きっと剣も手に入っていることでしょう」
「こちらにある剣と、あちらにある剣、そして残りは三つ……。どっちが先に手に入れるか、ですよね」
「決まっているわ、こちらが先に手に入れて、そしてその剣も出来ることなら手に入れたいけれど……」
「総帥、今来ました。この船はアント国際空港へ行き先を変更するようです」
「アント……って、機械文明の?」
「そうね。一番旧時代の色が濃く残っているとも言われている、アント」
「アントには知り合いもいないんですよね……。だからしらみつぶしに探すしか無いと思うのですが」
 レイニーの言葉に、メアリーは言った。
「そりゃあ、最初からしらみつぶしに探すつもりよ。……それに、こちらには強力な『眷属』が居る。……ええと、」
「ライトニング、なの」
「そう! ライトニングが居るでしょう?」
 今の動作が、少しだけおかしいと思ったのは、リニックだけだった。
 だが、問いかけるわけにも、指摘するわけにも、いかなかった。
 そこで彼女たちの良い雰囲気を崩すわけにも、いかなかった。
「それじゃあ、次の目的地は、アント。……アント国際空港にはどれくらいで到着するのかしら?」
「ああ、それなら――」
 レイニーの言葉をかき消すように、アナウンスが入ってくる。
『……皆様、このたびはご迷惑をおかけして申し訳ございません。トロワの大爆発により、空港への移動が出来なくなりました。その関係上、アント国際空港へ緊急着陸と致します。到着時間は今から五時間後になる見込みです。皆様には大変ご迷惑をおかけ致します』
 機械的なアナウンスを聞いたメアリーは頷く。
「あと五時間……。それまでにアントの剣が奪われていなければいいけれど」
 そうして、彼女たちの目的地はトロワからアントへと変更することになった。
 二つの剣はそれぞれの勢力によって一本ずつ奪われてしまった。
 残る『伝説の剣』は、三本。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第29話①

 村長が手に取っていた剣を手に取ると、それを見てにやりと笑みを浮かべる。
「ついに、手に入れたわ。剣の『欠片』を」
 そうして、空間に円を描くと、そこに穴が生み出された。
 そこに剣を放り込むと、再び円を描く。すると穴は閉じ、そこには何も無くなった。
「……あとは、それを知る人間を全て殺すだけ、ね」
 ポケットから銀時計を取り出して、時間を確認する。
「あと一時間、余裕はあるわね」
「村長っ!」
 そのとき、声が聞こえた。
 開いていた祠の入り口を見ると、親衛隊の一人――ピローがそこに立っていたのだ。
「き、貴様! 村長に何をしたっ」
「何って、殺しただけよ。あなただって人が……いいえ、リザードマンが死ぬ瞬間なんて見たことがあるでしょう? 見たところ兵士のようだし」
「貴様ああああああああああああああああっ!!!!」
「……しかし、兵士に必要なのは力だけじゃあ無い」
 オール・アイが彼に手をかざす。すると、そこから鋭い針が無数に生み出され、彼の身体を貫いた。
「あがああああああああああああっ!!!!」
「余裕も必要なのよ、正面から突撃するなんて無謀もいいところ。……それぐらい分かっておきなさい、兵士ならばね」
 そして、オール・アイは血まみれになった祠を後にする。
「さあ、後は」

 ――その事実を知るリザードマンを皆殺しにするだけ。

 ◇◇◇

 それからは、早かった。
 村長の家に居る学者は全員殺害し、親衛隊も息の根を止めた。
 残りの住んでいる人間は殺害こそしなかったが、禍根を残さないために、ある手段を用いた。
「……ええと、先ずはこの星のマグマの流れをうまくコントロールして……」
 北東の小島に着陸する宇宙船を見上げながら、オール・アイは何かをしていた。
「オール・アイ? もう終わったのかしら」
「ええ、もう終わりましたよ。剣は後で出しても良いかしら」
「構わないわ」
 外に出てきたロマ・イルファとの会話をしつつ、何かを作っているオール・アイ。
「オール・アイ……いったい何を作っているのかしら?」
「斥力爆弾、とでも言えば良いでしょうか。簡単に言えば、電子と電子が突っぱね合う力を利用して、そのエネルギーを爆発に変える。簡単なものですが、設計図が無いと流石の私も作るのには時間がかかりますね……」
「ここに居る人間を、皆殺しにするということ?」
「人間というより、リザードマンと言えば良いでしょう。彼らには人権はありません。それに、剣を持って行かれたことを知られては困ります。帝国の領土ではないから、消すのは簡単です」
「だめよ、それは!」
「あなたが言っても無駄です。これはもう実現されたこと。……よし、これで完璧です」
 そうして、穴から何から落ちてきた。
 それは小さな球体だった。球体に時計がつけられたそれは、十五分のタイマーを指していた。
「……あとはこのスイッチを押すだけです。ライラック!」
『はい?』
 突然声をかけられたライラックはスピーカーを通して、オール・アイの言葉に答える。
「今から十五分後にこの惑星を爆破させます。良いですね、大急ぎで出発する準備をしなさい!」
『それならいつでも出来ますよ! エネルギーも充填完了済です!』
 オール・アイは頷くと、スイッチを躊躇いなく押した。
「さあ。急いで逃げましょう。もうこの星に未練はありません」
 オール・アイはロマを押し込むようにロケットに入る。
 そしてロケットは五分後には完全にトロワを離れていくのだった。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第28話③

「……わ、分かった。聞こう、聞こうじゃあないか。その『野暮用』というのを。ただ、私たちがそれを叶えられるかどうか……」
「あら、十分叶えられるはずのことだけれど。別に『あなたたちの命が欲しい』なんて無茶なことを言っている訳じゃあないんだし?」
 ぞわり、とそこに居るリザードマン全員の鳥肌が立った。
 実際には鱗がついているから、鱗がついていない部分だけとはいえ、それでも寒気がしたことには変わりない。
 今、笑顔で彼女はなんと言った?
 私たちの命を欲しい、と言っている訳じゃあない?
 だとすれば、いったい何の目的で、彼女はここにやってきたのか?
「……私は、『剣』を求めてここにやってきた。剣は何処? 教えてくれる人が何処に居るのかしら」
「剣……だと? あれを取られてしまっては、我々は何も出来ない! あれは我々の始祖が大事に保管しているものだ!」
「そう。ああ、そういえばリザードマンの始祖ってずっとここに居続けたのよね。なんとまあ、窮屈なこと。海だらけの部分って、とても退屈だったろうに」
 一息。
「じゃあ、あなたがそこへ案内することは出来る? だって、あなた村長でしょう? いろんな人がそう言っているものね。そうじゃあないと嘘は吐かせないですよ?」
 ぐちゃぐちゃな言葉遣いだ、と村長は思っていた。
 まるで幾つもの人間の魂がその中に入っているような、そんな気持ち悪い感覚。
 何故そんな感覚が咄嗟に思いついたのか、ということは置いておくとして。
「……分かった。私が案内しよう」
 村長は、ゆっくりと息を吸って、やがてそう告げた。
「村長!」
 リルーの言葉に、村長は答えない。
「あなたたちのリーダーが寛大な性格でとても助かったわ。それじゃあ、案内してちょうだい。一応言っておくけれど、嘘の場所に案内するとか、闇討ちをするようなら……どうなることか、分かっているわね?」
「そんなことを出来るほどの余裕が、今の私たちには無い」
 そうして、村長とオール・アイのみで、祠へと移動することになった。
 祠の前に到着すると、村長はゆっくりと扉を開けた。
「ふうん、カトルと同じデザインなのね。やっぱり『ガラムド』が啓示で命令した通りの建物と言った感じかしら……」
 何かをぶつぶつと呟いているようにみえるが、そんなこと村長には関係なかった。
 今の彼は、どうやってこの状況から解放されるかどうか、そんなことを考え続けていた。
 そして、村長は一つのプランを考えついた。
 扉を開けると、彼は急いでその剣を手に取った。
 しかし、それよりも早く、オール・アイの構えていたナイフが彼の右手を切り落とした。
「あがああああああああああああっ!!??」
 自らの切り落とされた腕を見つめながら、腕がついていた場所を左手で押さえる。
 しかし、押さえたところで血はどんどん吹き出してくる。
「残念だ。非常に残念よ。……もし普通にしていたら、痛みを与えること無くそのままあの世へと送っていっただろうに。変な抵抗をするから」
 笑っていた。
 こんな状況であるにも関わらず、オール・アイは笑っていた。
 苦しみもがく状況を見つめて、ただただ笑っていた。
「貴様は……狂っている……!」
 あまりの痛さに、倒れ込む村長。しかしその目線は未だオール・アイを追っていた。
 オール・アイは告げる。
「狂っている? そりゃあ、そうでしょうね。人間の観点から、或いはリザードマンの観点から見ても、私は狂っているのかもしれない。けれど、私は人間じゃあない。世界を超越した力を持つ『眷属』。その意味が分かるかしら? 私は、神に近しい力を持っているということなのよ」
「……何だと……」
 村長は痛みを必死にこらえながらも、会話に参加する。
 しかし、徐々に痛みの方が勝り、そして血も出すぎたのか、意識が朦朧としてくる。
 オール・アイは笑みを浮かべ、村長の顔を見つめる。
「安心しなさい。直ぐにこの村のリザードマンすべてを送って上げるから。これはあなたが犯した罪の罰よ。……ま、私が剣を手に入れたことを誰にも知られたくないからやる、ただの隠蔽工作に過ぎないのだけれど」
「貴様……」
「だから、安心して、死になさい」
 そして。
 オール・アイの持っていたナイフは、リザードマンの心臓を的確に捉えた。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第28話②

「……私は、長く生きすぎたのだろうか。そうは思っていなかった。だが、私は、こうも長くリザードマンとして生を受けるつもりは無かった。友人がどんどん居なくなり、後は私だけ? そんな世界には長く生きたくなかった」
「……村長、落ち着いてください。今、あなたが落ち着かねば誰が指揮官として役目を果たそうというのですか」
「もう少しだけ、話をさせてくれないか」
 バルダルスは、それ以上何も言えなかった。
 村長は名残惜しそうに、話を締めくくる。
「若人よ。今起きていることを何とか乗り越えて……それでも何度か様々な難題に直面するかもしれない。そのときは、どうか諦めずに今回のように力を合わせて欲しい。……ああ、言い直そう。別にリルーたちに向けて言っている訳じゃあない。今、ここに居るリザードマン、全員が対象だ。そうでなくては、何も始まらない。一人で出来ることなど、限られている。意味が分かるかね? 複数人なら、解ける問題もあるということだ。だから、絶対に諦めてはいけない。そのときこそ真価が問われるというものだ。その『友情』というものが、」
「はい。話はお終い」
 唐突に、話題が中断する。
 理由は彼の背後に立った、謎の生命体だった。
 それは最初、リザードマンかそれ以外の存在か判別はつけられなかった。だから、どんな言語を話しているかもラムスたちには分からなかった。
 言語を理解できたのは、学者のリザードマンだ。特にいち早く理解できたのは、リルーだった。
「アース語……、ということはアースの人間ですか……!」
 リルーの言葉に、笑みを浮かべる。
 それは、白と赤を基調とした布を重ねただけの単調な服に身を包んでいた。
 黒い長帽子を被っていたそれは、やがてけたけたと笑い出す。
「ああ、良かった。私たちの言語を理解できるほどの知能があるようで……、本当に良かった」
「む、村長に何をする気だ!」
 ピローは槍を構え、その白衣の存在に矛先を向ける。
 溜息を吐いて、やがて一回転すると、
「……これで、あなたたちにも聞こえるかしら? 聞こえる、というよりは理解できる言葉で話せていると思うのだけれど」
 流暢な言葉だった。
 アースにはそれくらいにこの星の言語が伝わっているのか、と学者が興味を示してしまう程に。
 しかし、それは――それを考えること自体が間違っていた。
「私の名前はオール・アイ。ちょいとこの星には野暮用でね。今落下してくると思う宇宙船に乗り込んでいたのだけれど、ちょいと暇になったものだから、先に乗り込むことにしたの。……野暮用、聞いて貰える?」
 首を抑え付けられている状態にある村長は、何度も小刻みに頷いた。
 それを見たオール・アイは笑みを浮かべると、
「そう言って貰えると助かるよ。楽に終わりそうだ。……私の望みはね、あるものを手に入れることなのよ」
「ある……もの、だと?」
「はい、茶々入れない」
 どこからか生み出した氷のナイフを村長の首筋に突き立てる。
「村長っ!」
「はいっ、動いちゃだめだよ。動いたらその場でこのリザードマン……村長だっけ? の首を掻っ捌きますからねえ」
 歌うように。
 子供が歌を歌うように、そう続けた。
 はっきり言って、狂っている。彼らはそう思ったことだろう。しかし忽然とやってきたその異星人に太刀打ちすることは愚か、触れることすら敵わないのは、彼らの科学力以前の問題であるということには、未だ気づいていない。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第28話①

「そう言って貰えると、助かるよ。学者は、嫌いじゃあないが、ちょいとばかしいけすかないやつも居ることだしな」
「……それは言わないでおいていただけると助かります。そして、それが誰であるかと言うこともあまり考えないでおきましょう」
「そうして貰えると助かる」
 そうして、リルーとピローの会話は終わった。
「……それで、僕たちはどうすれば良いのですか?」
 ラムスの言葉を聞いて、村長が何かを話そうとして、学者達に目を向ける。
「……残念ながら、今は何も分からない、というのが現状でな。手出しは出来ん、と言ったところだろうか。なので、君たちにはここで待機して貰いたい。何かあったときには直ぐに出撃出来るようにね」
「出撃……ですか。他の親衛隊は呼ばないのですね?」
「現状は、な。何せ未知数の存在だ。今は呼んでも良いかもしれないが、彼らにも家族がある。……これを言ってしまうと、非常に心苦しい話だが、」
 それを聞いたラムスは小さく咳払いする。
「別に良いじゃないですか。つまり、僕とピローは孤児で、誰も家族が居ないから最悪死んでも問題ない、って話ですよね」
「ラムス!」
 リルーが制しようとするところを、村長が手で制す。
「……間違ってはいない。それを否定しようとも思わない。だが、だからといって、君たちの命を無碍にするつもりもない。それは、分かってくれ」
「それは……理解しているつもりです」
「本当かね?」
「村長の前で、嘘を吐くようなタイプに見えますか?」
 言ったのはピローだった。
「ピロー……。まあ、君たちは仲が良かったからな、リルーもそうだったか?」
「ああ、はい。そうです」
 リルーが合間に入って、会話に参加する。
「……君たちは仲が良い。それを忘れてはならない。いや、忘れるというか、実際には、仲が良い友人を作っておくべきと言えば良いか……」
「何を言っているんですか、村長。こんな重要な時に」
「こんな重要な時だからだ、リルー」
 リルーの言葉に、村長はそう返す。
 村長はさらに話を続ける。
「我らリザードマンが短命の種族にある。長生きできても六十年が精一杯といったところだ。……私はね、もう五十七になる。はっきり言って、寿命を迎えてもおかしくない年齢なのだよ」
「村長、こんなときに何を……」
 バルダルスの言葉に、なおも村長は話を続ける。
「私はもう少し生きていけると思っていた、そんな確証は一切無いのにな。そして、仲が良かった友人はどんどん消えていった。文字通りの意味じゃあない、死んだということだ」
 淡々と、村長は話を続けていく。
 それに彼らはただ聞くことだけしか出来なかった。
 話を聞くことだけしか――選択肢か浮かばなかったのだ。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第27話②

「……どうだか。ま、俺たちはあまり考えない方が良いんじゃ無いか。とにかく今は、村長の警護のことだけを考えて……」
「やれやれ、何というか、いつまでもお前達は真面目のようで不真面目な連中じゃのう」
 そう言われて、ラムスとピローはそちらを向いた。
 そこに居たのは、村長の補佐であるバルダルスだった。
 バルダルスは老齢のリザードマンであり、村長よりも年齢が上だ。だから村長になってもおかしくはないのだが、バルダルス自体がそれを嫌悪しており、現在の補佐役に収まっている、というのが噂の範疇で語られている。
 バルダルスの話は続く。
「今、親衛隊として働いているお前達を特例で村長の家に入れることとなった。勿論、武器も装備したままで良い。何かあったとき、直ぐに向かえるようにするためだ」
「俺たちを……村長の家に、ですか?」
「どうした、何か問題でもあるか?」
「い、いえ。何でもっ」
「じゃあ、早く入って来なさい。……直ぐに村長の家は閉鎖する。衝撃に備える為だ。学者どもの噂によれば、地震が発生するとも音速の波(ソニツクブーム)が発生するとも言われておる。いずれにせよ、外に親衛隊を放置して置いて、殺すわけにもいかないのが今の状態だ。いいかね」
「わ、分かりました」
 ラルスとピローは急いで立ち上がると、踵を返したバルダルスの後をついて行く。
 そうして彼らは中に入る。
「失礼します」
 ラルスとピローはほぼ同じタイミングで頭を下げると、そのまま中へ入っていく。
 かしゃり、かしゃり、と鎧の金属がこすれる音が響く。
「……あの、取りあえず鎧だけ脱いだ方が良いですか?」
 ピローの問いに首を傾げるバルダルス。
「何故じゃ?」
「いや……会議とかしている中で、この音を出すのは少々集中が途切れるんじゃないかなーって……」
「特に気にしなくて良いですよ」
 そう答えたのはリルーだった。
「……あなたたちは、僕たちに無い力を持っている。そしてその力を使って村長を守っている。それって、立派なことじゃないですか。だから、別に気にすることはありませんよ」
「……リルー」
「……ありがとう。こういうときじゃ無いと、君たちに会えないし、話をすることも出来ない」
 リルーは頭を下げる。
「い、いや。君たちは別に何もしていないってわけじゃあないだろう? 僕らには……はっきり言ってしまって、学がない。でも学者になっている君たちはいろいろな作戦を立ててくれている。持ちつ持たれつの関係、とでも言えば良いのかな。そういう風に思えばいいんじゃあないかな」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第27話①

「しかし、そうなると、リルーの推測が正しいということになります! それだけは考えられません! あり得ないとしか言いようが……」
「しかし、現にこういう意見が出ていることは明らかだ。時間は。どれぐらいで落下する推測だ。……いや、それは既に聞いていたな、二時間だったか。こうもしちゃあいられん。一先ず小島には誰も向かわないようにしろ。そして、我々は厳戒態勢を敷く。その意味が分かるな?」
「……村民にはお伝えしないおつもりですか?」
「伝えないわけがあるか。今から私が話をする」
「村長が直接、ですか」
「そうだ。それ以外にどの方法があるというのだ」
 村長は会議室の奥にある一室へと向かう。そこには放送設備があり、村の一周に設置されているスピーカーからその声を聞くことが出来る。
 マイクロフォンのスイッチを入れ、声を発し始める。
「……これより、緊急の情報を報告する」
 その言葉は、村の中へと響き渡っていく。
『今、空を見上げれば分かることだが、何かが落下してきている。それについて、不安を感じている人も多いことだろう』
 外で待機しているラムスは、スピーカーを通してその言葉を聞いていた。
「結局、隠しきれない、と判断したわけ、か」
 誰にも話すでも無い、その言葉は誰にも届くことも無い独り言だった。
『そして、それは北東の無人島へ落下する見通しが立っており、落下による衝撃も懸念されている。推測では未だ確立出来ていないが……恐らく、村にも衝撃が発生する可能性がある。なので、今から外出を禁止する。また無人島への移動も禁止とする。もし、現時点であの無人島へ向かっている存在を知っていたら、情報を提供して欲しい』
 ぷつり、とスピーカーから音が聞こえ、放送が終了したのをラムスは感じた。
「……何というか、呆気ない説明だったな」
「おい、ラムス。何してるんだ?」
 親衛隊の一人、ピローが声をかける。
「おう、ピロー。どうしたんだ、急に。君から声をかけるなんて珍しい」
「お前がここでぼうっとしているから気になったんだよ。……で、あの話聞いたか?」
「あの話? 今、村長が言っていたことのやつ? だったら知ってるよ、ちょいと野暮用をしていたら運悪くというか運良くというか、その話を聞いてしまってね」
「そうか。だったら良いんだ」
 隣に腰掛けるピロー。
「何というかさ、……俺、怖いんだよ」
「怖い?」
「急に何かやってくるという感覚だよ。分からないか? なんと言えば良いかな、そのやってくる感覚がまるで肌に虫がざわざわと動いているようなそんな感覚だよ。……とはいえ、俺たちリザードマンの肌は硬い鱗で覆われているから、そんな感覚もあまり感じられないといえば感じられないのだがな」
 リザードマンは、背中を中心に堅い鱗に覆われている。
 しかしながら、お腹や膝裏といった部分は鱗ではなく柔らかい肌で覆われていることから、決してその防護は完璧とは言いがたい。
 だからこそ、兵士や親衛隊になったリザードマンは鎧を着けることを強制としている。そうしなければ心臓を狙われる可能性が非常に高いからだ。弱点を常に出しているのと等しい訳だから、それをわざわざ見せつける兵士など居るわけが無い。だから現に、親衛隊であるピローやラムスも鎧を着けているわけだが、
「……俺たちも、どうなるのかな。一度寮に返されるのかな?」
「可能性は高いと思うけれど、なんとも言えないよな。何せ、俺たちの目的は村長の警護だ。でも村長の家に武器を持ち込むことは緊急時を除いて禁じられている。それに今は重要な会議中だし。……案外、俺たちの命なんて軽く思われているかもしれないぜ」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第26話③

「現在、調査段階ゆえ、推測の域を出ませんが、あれは人工物であると考えられます」

 それを聞いた学者たちがざわつき始める。そんな推測など情報共有していない。彼らにとっては予想外の言葉だった。

 しかしながら、その反応は、勿論リルーには想定通りだった。

「……続け給え」

 村長だけが、平静を保って聞いていた。

「ありがとうございます」

 一息。

「……人工物の規模は定かではありません。しかし、ここ数年の天文学の記録によれば、このような大きな規模の落下物が出るとは、到底考えられないのです」

「成程、つまり君は過去の記録を参照した結果、『自然に落下する物体』では有り得ないということだな?」

「はい。あれはただの落下物ではありません。……ここから先は、私の予測ではありますが、あれには嫌な予感がします。歓迎するかどうかは別として、その人工物に乗る存在の命令を聞いておいた方が良い。そう感じられるのです」

「あれには何か乗っていると言いたいのか」

 しかし、それならば村長の聞いた啓示と予測は一致する。

 どのぐらいの規模によるかは置いて、その落下物が着水した程度で得られた影響など高が知れている。天を裂き、大地を砕く。その啓示には合致しないのだ。

 では、その啓示はどうやって実現されるのか。

 これは……村長は信じたくなかっただろうが、人工的なものではないか、と予測していた。大地を砕く程の莫大なエネルギーが発生するのではないか、彼はそう予測していたのだ。

 そして、それと同じ予測を、リルーも立てていた。

「……リルー、だったか」

 村長は重い口を開ける。

「はっ、はいっ。すいません、過ぎたことを言ってしまいましたかっ」

「いいや、そんなことは考えておらん。……寧ろその予測は私も考えていた」

「村長……様もですか?」

「そうだ」

 村長は頷く。

「私は……出来ることなら、君たちからその不安を払拭する材料を得たかった。だからこうして急いでやって来たという訳だが……、私と同じ予測を立てたのが一人でも居ると言うのならば、私の予測も、『机上の空論』ではないということだ」

英雄譚なんて、僕には似合わない。第26話②

「……若者は強く、だが無鉄砲だ」

「それが若者の取り柄でしょう、若者は先が長い。一度きりの生涯をこんなところで諦めていいものか!」

「……確かに、君の言う通りかもしれないな」

 村長は目を閉じ、なにかを考え始める。

 やがて目を開けると、ゆっくりと頷いた。

「私が悪かった。……話をすれば何か具体的な案が思いつくかもしれん。ならば、早々に話をしようではないか。君が言うのではない、私からこのことについてははっきりと説明しよう」

「村長……」

「何をしょげておる。まだまだ始まったばかりだぞ。ここで諦めたら駄目だと言ったのは君ではないか、ラムス」

 それを聞いたラムスはゆっくりと頷いた。

「た、大変ですっ」

 そんな時だった。

 祠の前に、親衛隊の一人がやってきていた。

「ここには立ち入りを禁じているはずだが?」

 目の前にラムスが居るにも関わらず、村長はそんなこと関係ないように告げた。

 親衛隊の男は申し訳ございませんと頭を下げて、

「村長にどうしても話しておきたいことがありましたゆえ、こうして禁忌を犯している次第でございます。確かに、これはやってはならないこと。それは私たちも重々承知しております。しかしながら……」

「良い。それ以上は時間の無駄だ。それで? いったい何が起きたというのか、告げてみよ」

「はっ。実は……」

 すっ、と。

 彼は天を指差した。

 それを見た彼らは首を傾げるが、やがてそれを補足する説明が追加された。

「……天から光が落ちてきているのです。正体不明の、神からの贈り物のようにも見えるものなのですが」

「なにっ、天から光だとっ」

 慌てて外に出る村長。

 そして村長はそれを両の眼ではっきりと捉えた。

「おお……確かに、天から光が降ってきておる……。啓示は、間違っていなかったというのか!」

「は? 啓示、ですか」

「そんなことはどうだっていい! あれは何処に落ちる予定だ、はっきり述べ上げよ!」

「はっ。今調査を進めておりますが、このままの速度で向かいますと……、」

 


 ……およそ、二時間後には村の北東にある小島に落下するものと見られます。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 村長の家、その中にある村役場の一室。

 既にその『天翔ける光』についての対策室が設置されていた。

「村長! 何処に向かっておられたのですか、我々は急いで調査を進めているところですが」

「そんなことはどうだっていい! 今は何処まで、何処まで調査が進んだ」

 学者の一人、リルーが手を挙げて述べ始める。