増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第35話③


「なっ……?!」
 ガラムドが急に顔色を変える。
 それを見ていたフルは、今だと言わんばかりに攻撃を開始する。
 右手に構えていた剣を手にしていた彼は、そのまま攻撃を行い、ガラムドの身体を真っ二つに切り裂いた。
 ガラムドの身体はそのまま霧のように消えてしまったが、少なくとも危機は脱したのは、メアリーにも分かっていることだった。
 いや、それよりも。
「フル、まさか会えるなんて……」
 しかし、フルの姿は半分透けている状態になっている。
「メアリー。まさか僕も会えるとは思わなかったよ。……けれど、僕は一度きりしか会うことが出来ないんだ。……多分偶然というか、奇跡というか、そういう類いだと思うのだけれど、きっとカミサマがなんとかしてくれたんだ」
「カミサマ……ガラムドじゃあなくて……?」
 メアリーはフルが何を言っているのかさっぱり分からない。
 しかし、フルの身体はどんどん消えていく。
「ありがとう、メアリー。また君に会えて……。君を助けることが出来て、本当に良かった……」
「フル! フル! お願い、返ってきて!」
「それは、出来ないみたいなんだ。どうやら、僕の魂を、オリジナルフォーズを封印するための鍵として使ってしまっているみたいで、長い時間ここに滞在していると、どうやらオリジナルフォーズが復活してしまうかもしれないんだ」
「だったら、オリジナルフォーズを倒せば良い! オリジナルフォーズさえいなければ……」
「だめだ。だめなんだよ。メアリー」
 フルの身体は最早見えなく成りつつある。
 さらに、メアリーは話を続ける。
「フル! 絶対に、絶対にあなたを助ける! オリジナルフォーズを倒して、絶対にあなたを助けるから!!」
 そして、フル・ヤタクミの身体は完全に消え去った。

 ◇◇◇

 あれから。
 惑星は、一つに収まった。
 大学で起きた騒動も、一度はどうなることかと思ったが、案外誰も騒ぎ立てておらず、リニックは普通に大学に復帰することが出来た。
 それどころか、今まで起きたことはまるで無かったかのように扱われていた。
 正確に言えば、一週間程度旅行に行っていただけ、という風に記憶が書き替えられているような感じだった。
 窓から外を眺める。
「英雄譚……ねえ」
 あれからメアリーとは連絡を取り合っていない。彼女は、あれから英雄を探して旅をしているのだろうか。それすらも分からない。
 まあ、そんなものは僕には似合わない。
 僕には大学で研究をしていることがお似合いだ。
 と、リニックは踵を返したところで――。
「あ、」
 何かを思い出したリニックは、忘れようと思う風に呟いた。
「そういえば、彼女から錬金魔術のこと聞きそびれちゃったなあ……」
 窓から強い風が吹き込んできたので、書類が飛ばされないように、窓を閉じるリニックだった。

 

 

第一部 完

英雄譚なんて、僕には似合わない。第35話②

 一息。
「ですから、それは間違えなく進めなくては成りません。一度作り上げた世界は、最後まで責任を持って管理を進める。それが私たち神とその管理者の役割。……ですが、ガラムドは影神に操られ、その役割を奪われていたようですが」
 さらに一息。
「結局は、私たちが全ての責任を負わなくては成りません。世界がいくつかに分裂しました。それも元に戻しましょう。眷属が破壊した星々がありました。それも元に戻しましょう。そして、二度と私たちが関わり合いのないように、私たちの次元と、貴方達の次元での世界を絶ちましょう。そうすれば、二度と影神が暴れることはありません。まあ、もう彼は影神としては勿論のこと、存在そのものが抹消されてしまいましたが……」
 ちらり、とムーンリット・アートは影神の骸を見つめる。
 すると骸がきらきらと輝いて消滅していった。
「骸は……どうなるのですか?」
 リニックは恐る恐る問いかける。
「そもそもの話、我々は人間とは違う立ち位置にある存在です。ですから天国も無ければ地獄も無い。待ち構えているのは、永遠の無です。その意味が分かりますか」
「……いいえ、残念ながら、そこまで知識は持ち合わせていません」
「良いのですよ、それで。私は、結局、任せきっていたことが間違いだった。影神に任せきっていたからこそ、世界の暴走を引き起こしてしまった。そして、貴方達の世界もあんな風になってしまった。本当に、本当に申し訳ないことをしてしまった……」
「い、いや……そんな急に畏まられてもっ」
「結局、あの世界はどうなるつもりだ」
 カラスミは剣をムーンリット・アートに向ける。
カラスミ! 今、君が剣を向けているのは、誰だか分かっているのか!」
「知らんね。そもそも、帝国が信仰しているのはガラムド教だ。ガラムド様以外の存在を神と認めるつもりは毛頭無い」
「毛頭無い……ですか。ふふ、それについては仕方ないことでしょう。貴方達の世界では、神はガラムドだと教えられていた。いや、正確にはそういう風に仕組まれていたのですから。だから貴方達の世界を先ずは元に戻さなくては成らないのですけれど」
「?」
「元に戻す……つまり、六つの世界を一つにする、その大仕事が最後に残されています。その為にも、先ずはガラムドから管理者の権限を剥奪しなくてはなりません」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第35話①

 メアリーの記憶が、どんどん吸い取られていく。
 ガラムドに記憶エネルギーが蓄えられていく。
 ――が、それは途中で中断される。
「……何?」
 ばちっ、と電気が弾けるような音がした。
 それは、メアリーとガラムドの間に存在する『何か』だった。
「あなたは、もうこの世界に介在出来ないはず……。どうして、どうして!」
「どうして、って……」
 一息。
「愛する女のために、ピンチを救うのは良くある話だろ?」
 背中を見ていた彼女は、それが誰であるかをはっきりと目の当たりにしていた。
「……ふ、フル……!」
 そこに立っていたのは、かつての予言の勇者、フル・ヤタクミだった。

 ◇◇◇

 影神の頭にノイズが走る。
『……くっ。何だ、このノイズは……』
 その瞬間、影神は姿を見せる。透明化させていた彼の術がうまくいかなくなったのだ。
「今だ、カラスミ=ラハスティ!」
「くっ。あなたに命令される筋合いなんて無いわよ!」
 カラスミは駆け出して、影神に向かって攻撃を開始する。
 影神は何度も『上の次元に移動しようとしても』なおもそれが実現出来なかった。
「まさか……、まさか、私を見捨てたというのですかっ!! 神、ムーンリット・アート!!」
 そして、影神の姿は真っ二つに切り捨てられた。
 動かなくなった彼の姿を踏みにじり、カラスミはその骸を見つめる。
「……今、なんと言った?」
『ムーンリット・アート。私の名前です』
 踵を返す。
 そこには、一人の女性が立っていた。否、浮かんでいたといった方が正しいかもしれない。
 目を瞑っていた――或いは開けることが出来ないのか――女性は、ゆっくりと降り立って、一言呟く。
「私の名前は、ムーンリット・アート。管理者と影神に権利を委譲していた、神です。この世界を作り上げたのは全て私。そして、この世界での責任も、私が悪い。ずっと表に出ること無く、影神の様子を窺っていたのですから」
「……どういうこと?」
「影神は、私を乗っ取ろうとしたのです。私の意識を、私の精神を。そうして、彼は世界を作り替えた。それが、この世界。私は無数の世界のうち、たった一つの世界だけですが、それでも、その世界を影神によって作り替えられてしまった。あなたたちには次元が遠すぎて、何を言っているのかさっぱり分からないかもしれませんが、しかして、それは間違いではありません。貴方達の世界は、はっきり言って『不完全な世界』でした。記憶エネルギーによって生み出された、不安定で不完全で不確定な世界。それが貴方達の住む世界」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第34話②

 さらに、影神は歌うように話を続ける。
「知恵の木の実から生み出されるエネルギーは、これまでのエネルギーとは違いクリーンで莫大なエネルギーを生み出すことが出来る、ということに人間は気づいてしまったんだ。これは不味いと思ったのが、僕たち神であり、管理者であるガラムドだ。直ぐに、自衛機能を働かせて人間の数を減らそうと試みた。しかしそれでも人間は争い――最終的に、どうなったかは君が良く知っていることだろう」
「もともと一つだった星が六つに分割した、ということですね……?」
「そうだ。そもそもあの星は分割されるべきではなかった。分割されると言うことは、記憶エネルギーの容量が減るということなのだから。それに、記憶エネルギーは最終的に減少傾向にあることは分かっていた。だから、記憶エネルギーを一度充填せねばならなかった。それが、君たちの知る『血の海』だ。あれは人間やその他動物を液体にすることで、一度記憶エネルギーにした。それは誰も悪いことじゃあない。悪いのは、ここに生まれた君たち自身だ」
「でも、それは……」
「人間はこの世界を滅ぼす存在だ。だからこそ、人間は一度滅ぼした。にも関わらず、この世界は滅び行く定めにある。何故か? それは人間がこの世界の記憶エネルギーを無駄に使い倒してきているからだ」
「違う! 人間は、変わろうとしている。絶対に、世界を滅ぼすなんてことはあり得ない」
「あり得ない? それは誰が言っていることだ。誰が保証することだ。誰が宣言することだ! この世界を滅ぼそうとしているのは、他ならない人間どもだ!」
「そうかもしれないな。確かにそれは間違っていないよ」
 影神の背後から、声が聞こえる。
 剣を構えていたのは、カラスミだった。
 カラスミはその剣を影神の首に当てていた。
「……何がしたい?」
「動くな。その時点でお前の首をかっきるぞ」
「……面白いことを考えるモノだね、人間のくせに」
「五月蠅い。ここは何処だ。我々は何のために連れてこられた。理由をはっきりと述べろ」
「と言われてもねえ……。君たちはあくまでも、リニック・フィナンスの『ついで』にやってきただけに過ぎないし」
「何だと?」
「そもそも、影神と人間が対等の立場に居る時点で間違っているということに、何故気づこうとしない?」
 その場から姿を消す影神。
「何処だ! 何処に隠れるつもりだ!」
『本来ならば……誰にも見せることは無いのだけれど、これは余興だ。君たちに見せて上げようじゃあないか。少々パーツが足りないけれど、致し方ないことだ。これについてはオール・アイに責任を取って貰うことにしよう』
「何をするつもりだっ」
 彼女の言葉を遮るように、目の前の白い壁が上にスライドしていく。
 そこには宇宙空間が広がっていた。そして、それぞれの星がちょうど見える状態になっている。
 その星がゆっくり、ゆっくりと動いているのが感じられた。
「……まさか、影神! お前はいったい……」
『剣の力を利用して、この世界をもう一度一つにする。その衝撃で今生きている動物は滅んでしまうかもしれないが、記憶エネルギーは充填されている。そこから生物を生み出すことなど造作も無い。さあ、止めたいと思うなら止めてみるが良い、リニック・フィナンス!』

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第34話①

 リニックもまた、一人白の空間に居た。
 そして、目の前には浮かんでいる存在が一人。
「……やれやれ、ついに『剣』の封印を解いてしまったというわけか」
「あの、あなたは……?」
「僕? 僕はね……この世界、次元、存在全てを作った『神』、その代理人とでも言えば良いかな。もっとも、彼女は力を使いすぎてね。今は少しお休みさせているんだ」
「お休み? 神の代理人?」
 いったい全体、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 さらに、彼は話を続ける。
「僕の名前は、……いいや、名前すらも忘れてしまった。今や、地位で呼ばれることが殆どだからね。僕は影に隠れた神、その名も影神(えいしん)。一般的に神と揶揄されているガラムドはただの管理者さ。神からある一定の権利を委譲しただけに過ぎない。つまり、彼女も管理される立場であり、いつ排除されてもおかしくない。そして、その管理者の上には僕たち影神と真の神が居て、管理者の下には管理者を補佐する役割として眷属を置いた。それで世界はしっかりと回っていくはず、だった」
「だった?」
「人間はあまりにも愚かな行為を連続したのだよ。そうして一度、人間を滅ぼした。正確には、人間に選択の余地を与えた。滅びるか、種としての人類を残すために僅かな人間だけを残すか、と。結果は後者を選択した。当然と言えば、当然の結果だ」
 一息。
「一度、人間が地上から居なくなった世界は、人間以外の動物の楽園になった。動物は人間以上の知能を持たない。だから記憶エネルギーを使われることはない。まあ、そもそもあの時点で記憶エネルギーに気づく人間も居なかったわけだから、別に問題なかった訳だけれどね。でも、そこで我が儘を言い出した存在が居た」
「それは……ガラムド?」
「ご明察。ガラムドは再び人間を作ったのさ。人間を作れば、また平和な世界を送ることが出来る。実際は、管理に暇を弄んでいたんじゃあないかな。それについてはあまり考えないけれど、ともかく僕は肯定することにした。もし今度こそ人間がだめな世界を作ったらそのときは人間を滅ぼそうという判断の下、地球に自衛機能を齎した」
「それがメタモルフォーズだって言うんですか?」
「君は話が分かるようで助かるよ。そうだ、その通りだ。メタモルフォーズは地球の自衛機能を持っていた。つまり、地球に何かあったらメタモルフォーズが攻撃をする。そうして地球に自衛機能を持たせることにした、というわけさ」
「でも、偉大なる戦いが起きてしまった……」
「ああ、君たちはそう呼んでいるんだったね。僕にとってみれば愚かな争いだよ。人間は、とうとう記憶エネルギーの存在に気づいてしまった。まあ、メタモルフォーズも永遠に動ける訳では無い。記憶エネルギーの詰まったエキスを定期的に補充する必要があった。その為に生み出されたのが、知恵の木の実だ。それに、人間は気づいてしまった。気づいてしまったんだよ」

英雄譚なんて、僕には似合わない。第33話③

「だから、それは心外だと言ったじゃあないですか。そもそもオリジナルフォーズを封印するためには、フル・ヤタクミという人柱が必要だった。だから彼には世界の為に犠牲になってもらった」
「世界が血の海になっても、フルが人柱になって問題ないと言えるの?!」
「……それは、ミスですよ。世界を正しく回していく上で、オール・アイが……リュージュがミスを犯した。この世界へとつなげる為に無理矢理世界を破壊しようとした。本来ならあれほどの出来事が起きたら上位存在が修正せねばならないのですが……」
「どういうこと?」
「上位存在があの世界を修正するために、人間やその他動物を一度『液体』に戻す必要があった。記憶エネルギーの媒体として地球が存在し、分割してアースと化した。しかしながら、記憶エネルギーの上限にも限界がある。限りがあるのですよ、幾ら惑星とはいえ、四十六億年分の記憶エネルギーを、人間は僅か二千年で使い切ろうとしていた。だから、管理者である私が処分を下さねばならなかった」
「処分……ですって?」
「世界を平穏にするために、記憶エネルギーの循環を強化した。あなたたちが『血の海』と名付けた現象ですよ。そもそも人間はあの世界においてウイルスと言っても過言では無かった。オリジナルフォーズはそのために世界から生み出された『白血球』と言ってもいいでしょう。そして人間であるあなたたちがウイルス。意味が分かりますか?」
「分からないわよ、いいや、分かってたまるものですかっ。それってつまり、」
「ええ。この世界はあなたたち人類を不要であると判断した。だから、オリジナルフォーズとメタモルフォーズは、世界を席巻するようになった。血の海によって記憶エネルギーは徐々に回復傾向にあります。けれども、未だ足りない。人間が使い果たしたエネルギーは、未だ足りないのです」
「記憶エネルギーを手に入れる……それって」
「記憶エネルギーを手に入れるために、私の部下が良く活躍してくれましたね。私の部下が誰であるかは、最早知っているでしょう。眷属という存在です。眷属という存在は、エネルギーを必要とする。あなたが黒い靄だと言っていたそれは……記憶エネルギーの塊。あなたも感じていたのでしょう、徐々に記憶が失われている、ということに」
「そんな……そんなことは……」
 メアリーは頭痛を感じる。
「そう。その頭痛こそが、記憶エネルギーの充填を感じたサインなのです。エネルギーには限りがある。人間はそれを使い切らなくてはならない。しかし、人間の身体とは不自由なことでそれを溜め込むことが出来ない。常に吐き出し続けなくてはならないのです。非常にもったいない。そうは思いませんか?」
 ガラムドは、メアリーの頭にそっと手を当てる。
 すると頭から黒い靄が消えていく――そんな感覚がした。
「これは、記憶を吸い取っていたということ。あなたは、祈祷師の血を引いている。だからエネルギータンクとしては有用だったのですよ。人間は記憶エネルギーを失うことで、記憶によって得られるストレスを解消出来る。つまり、人間が長生きする為には記憶エネルギーを失い、完全なる無となること。意味が分かりますか? 記憶エネルギーは、記憶というのは、人間にとって不要なのですよっ!」
「いや、いや、いやああああああああああああああああっ!!」
 白い空間に、メアリーの叫びが響き渡った。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第33話②

 そこは白い部屋だった。
 そこは白い空間だった。
 そこは空と地上の境界が定かでは無い場所だった。
 そんな場所に、メアリーは一人置き去りにされていた。
「……そんな、リニックたちと一緒にやってきたはずなのに……。どうして?」
 リニックは居ない。
 ライトニングは居ない。
 レイニーは居ない。
 カラスミも、オール・アイも居ない。
 誰一人居ない世界。
 誰一人居ない空間。
 何も存在しない間。
「……でも、何処か懐かしい」
 そう、それはまるで母の腕の中で眠る赤子のような感覚。
「……でも、来たことが無い空間」
 ここはメアリーが来たことの無い空間だった。
 ゆっくりと、周囲の探索を開始する。
 歩き始め、少しすると、何かのオブジェが浮かび上がった。
 それはまるで十字架のような何かだった。遠くから見ると何だか分からなかったが、近づいていくとそれが何であるか定かになっていく。
「フル……?」
 それは、ある一人の人間が磔となった姿だった。
 フル・ヤタクミ。
 かつての予言の勇者であり、別の次元に封印したオリジナルフォーズごと消えてしまった――はずだった。
 そんな彼が、何故今ここに居るのだろうか。
 分からない。答えはまったく見えてこない。
「フル。フル!」
 フルに声をかけるメアリー。
 しかしフルは答えない。
 フルの肌に触れる。フルは冷たくなっていた。
「嘘……フルは死んでいる……」
「それは、あなたの心の世界に居るフル・ヤタクミを具現化した姿に過ぎない。とどのつまり、それはフル・ヤタクミであってフル・ヤタクミではない。意味が通ずるかしら?」
「あなたは……」
 白の世界から、地面から、ぬるりと生えてきたその存在は、白と赤を基調にした服を身にまとっていた。
 オール・アイに近いその存在は、しかして、メアリーには覚えがあった。
「あなたはご存じでしたね。お久しぶりです、メアリー・ホープキン?」
「ガラムド……。この世界の管理者にして、フルをこんな世界に閉じ込めた存在……」
「閉じ込めた、とは心外ですね。そもそもフル・ヤタクミは自ら望んでこの世界にやってきたのですよ。その意味を分かっていただきたいものですね」
「あなた……フルを閉じ込めておいて、良くそんなことが言えるわね……!」

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第33話①

 メアリーは驚いていた。
 何故?
 何故、そこに剣が揃ってしまったのか?
 何故?
 何故、剣の同調の中心にリニックがいるのか?
「これは……いったいどういうこと?」
 メアリーは今の状況が理解できなかった。
「総帥!」
 状況を整理するために追いついてきたライトニングとレイニー。
 そして、その状況を直ぐに理解できたのは、ライトニングのみ。
「……これは、同調が始まった合図なの」
「同調……ですって?」
「シルフェの剣は、オリジナルフォーズの力を封印するためのものだったの。つまり、百年前に復活したオリジナルフォーズは完全な力を持ち合わせてはいなかったの」
「どういうことっ。それってつまり、」
「未だ、オリジナルフォーズは完全に倒されていない、ということなの。……あなたたちが百年前に、別の次元に封印したそれは、全くの偽物。本物は、もう一つ上の次元に眠っている」
 ごごごごご、と地面が唸る音が聞こえる。
 リニックの頭上に、真っ黒い穴が出現する。
「何よ、これ……。いったいどういうこと……!」
 メアリーの言葉にライトニングは答えない。ライトニングは、それどころかリニックの身体にしがみついた。
「ライトニング! あなた、いったい……」
「あなたも知りたいでしょう、この世界の、オリジナルフォーズの真実を! そして、予言の勇者、フル・ヤタクミと出会いたいでしょう!」
 今までの口調とは違うそれは、別人かとも思わせた。
 しかし、違う。
 それは大いに間違っていた。
 そして今は――彼女の指示に従うしか無い。そう思って、メアリーもしがみつく。
 慌てて、レイニーもしがみつく。
「待ちなさい!」
 双方からカラスミとオール・アイがやってくる。
 何とか彼女たちを追い払いたいところだが、ここで手を離してしまうと二度とリニックに出会えない気がする――不思議とそう思った彼女たちはそのまましがみつくだけだった。
カラスミ=ラハスティ! あなたもこの剣の真実を知りたいでしょう! ならば、しがみつきなさい、そのリニック・フィナンス……いいえ、剣の『器』に!」
「何ですって? あなたいったい何を」
 オール・アイは何とかリニックの足にしがみついた。
「いいえ、今は迷っている暇など無いわね!」
 カラスミも残っていた右足にしがみついて、それでも何とかリニックの身体は浮かび上がっていく。
 そして、リニックたちの身体は完全に消失した。

 

英雄譚なんて、僕には似合わない。第32話②

「……というと?」
「剣が真の力を得るチャンスだということだよ。それは誰にも分かっていない。分かっていたら、そもそも近づけることなどしないはずだからね」
「剣と、所有者たる格を持つ人間が居ることで自動的に剣の封印は解かれる、と……?」
「そうそう。人間のくせによく分かっているじゃあないか。つまりはそういうことだよ。この世界がどう傾こうとも僕の知ったことじゃあない。そもそも、帝国としてはあれを封印するに留めているのは、あれを破壊することが出来ないからだ。世界の管理者たるガラムドが何か力をかけているのは分かる。しかしそれを解除することは出来ない。所詮、僕たち眷属はガラムドより低い次元の存在だからね。そして、それよりも低い次元に君たち人間が存在しているわけだ」
「それならば……何故我々はそれを管理しなくてはならないのですか。破壊しなくとも、何処か永遠に消し去ることだって……。そうだ、宇宙に飛ばしてしまえば永遠にこの世界には戻ってこない! そういうことだって考えられたはずです」
「考えたさ。そして実際に実行された。でも、だめだった。結局、この世界にあれは必要だった。たとえどんな力を得ようともこの世界にはあの剣は必要だった。シルフェの剣、その完全体……オリジナルフォーズを完全に破壊できなかったのは、敵の魔術師が剣を六つに破壊し、プロテクトを行ったからだ。そしてそのプロテクトは、この二千年で、やっと解放される。まるで、来たるべき時を待っていたかのように」
「……陛下、何をおっしゃられているのか、さっぱり分からないのですが……」
「簡単なことだ」
 立ち上がり、アンチョビの話は続く。
「この世界を生かすも滅ぼすも、あの剣次第だということだよ」

 ◇◇◇

 一番最初に祠に到着したのは、誰だったか。
 答えは、オール・アイだった。
「ついに祠に到着しましたか……。ロマ、準備は良いですね?」
「大丈夫よ。……ところでここには何があるのよ?」
「剣ですよ。そして、試練を司る古い人間が居ますが、そんなことはどうだっていい。力でねじ伏せるだけに過ぎません」
 石の扉を開けると、そこにはミイラが眠っていた。
 そしてミイラが抱え込むように剣が置かれていた。
「これが剣ね……」
「ええ、それよりも先に、この『ミイラ』を破壊します」
 そして、オール・アイは右手を掲げる。
 するとミイラはまるで砂上の楼閣の如く、さらさらと崩れ去っていった。
 残された剣が、ごとり、と棺の中に落ちる。
「さあ、これで二つ目です。手に取って構いませんよ、ロマ」
 そう言った矢先――剣がふわりと浮かび始める。
「?!」
 ロマは驚いてその剣を取ろうとするが、
「いけません、ロマ。避けてください!」
 オール・アイの忠告空しく、ロマはそのまま剣に切り裂かれてしまった。
 そしてロマだった身体は水にその姿を変え、そこには小さな水たまりが出来ていた。
 剣は祠を抜け出し、一直線にどこかへと向かっていった。
「……不味いですね、まさか剣が既に五本揃っているということですか……!」
 流石のオール・アイもそこまでは想定出来なかったのだろう。
 となると、向かった先は容易に想像出来る。
「あの剣を使われては成らない。使って貰っては困るのですよっ!」
 そうしてオール・アイはロマのことを見ることも無く、そのまま走り去っていくのだった。

英雄譚なんて、僕には似合わない。第32話①

「何故あいつらは、剣をそこまでしてほしがるんだ……?」
「はい?」
「いいや、お前達には言っていない。お前達は引き続きここの捜査を続けろ」
 そう言って、カラスミは地下トンネルの奥へと進んでいく。今は列車が通ることも無い、誰も通るはずが無いその通路を歩いて行く。
 それを見た警備隊の二人は、きょとんとした表情を浮かべていたが、彼女が遠ざかっていくのを見て、再び仕事に取りかかるのだった。
 カラスミは怒っていた。
 何故我が国の人間を犠牲にしてまで、その剣を狙っているのか。
 今回の事故が誰によるものか分からない。だが、剣の眠っている祠へ向かうにはこの地下トンネルが最適解であり、それはカラスミたちも把握していた。
「……だからこそ、彼奴らの行動が気になる。このまま行けば、まず確実に帝国とぶつかることになるだろう」
 では、どうすれば良いか?
 そこまで待機していれば良かった話だったのに、どうして表に出ることになったのか?
 その引き金となったのは、その鉄道事故と言えるだろう。列車爆発事故により多数の人間が亡くなった。そしてそれが祠に一番近い地下トンネルの入り口付近での事故となると、カラスミも動かなくてはならない。そういう結論に至ったわけだ。
「……彼奴らめ、世界をどうするつもりだ……?」
 それは、実際に聞いてみないと分からない。
 そして、それを突き止めなくてはならない。
 それが彼女の使命であり、軍と剣を任された彼女の仕事だった。

 ◇◇◇

「……それにしても、彼女に剣を任せて構わなかったのですか?」
 会議室。キャビアの隣に、一人の少年が座っていた。その少年はその場には似つかわしくない雰囲気を醸し出していたが、不思議と溶け込んでいた。
「うん! だって、一番『適性』があったのは彼女だったからね。けれど、一番の適性は残念ながら既にメアリー・ホープキンの手に落ちている。それは分かっているよね?」
「ええ。分かっておりますとも。……ですが、彼奴らに剣を手に入れられるのは時間の問題……」
「だから、それをどうにかするのが君たち軍の仕事でしょう? 僕の職業は?」
「……カトル帝国皇帝、アンチョビ・リーズガルド陛下にございます」
 そうそう、とアンチョビは言って、
「だから僕の言うことを素直に聞いて、彼らに盗まれる前に剣を手に入れる。そして、剣の使い手も手に入れる。それが君たちの一番の任務だって話は……キャビア将軍、あなたにしたはずだけれどなあ?」
「お、お仕置きですかっ」
 キャビアが慌てた表情を浮かべている。
 それをニヤニヤと見つめているアンチョビ。
「どうしようかなあ、取りあえず剣は今彼女が持ち合わせているんだよね。そんでもって、今はこの星にある祠に向かっている。けれど、今、祠には別の一派もきっと向かっているだろうね。となると、その祠には、持ち主は違うとはいえ、欠片が全て揃うということになる」